「狂い咲きサンダーロード」について

念願の石井聰亙監督「狂い咲きサンダーロード」(1980)をようやく鑑賞することが出来、感無量の本日昼下がりである。さすがに海外では入手困難で、ずっとずっと以前から観たくて観たくて仕方なかった作品なので、興奮冷めやらぬまま、感想を綴ろうと思う。

まず、この映画は石井監督の日本大学藝術学部映画学科の卒業制作課題(学生映画)として作られたインデペンデント・フィルムだと聞いていたので、クオリティには全く期待していなかったが、ただ、そのわりには知名度が高すぎるし、北野武監督の好きな映画ベストテンにも9位にランクインしていることから、よほどストーリーや演出、脚本、カメラワークが卓越しているのだろうと想像していた。しかし本作は、下手なATG映画よりもはるかに首尾よく巧妙に作られていて、全く素人の作ったものだとは思えないほどの完成度。また配役に小林稔侍、演出・音楽に泉谷しげるなど、プロフェッショナルの参加もあって、完全に他のB級映画とは一線を画する仕上がりで、本当にびっくりした。

石井監督は1975年、大学入学直後から自主映画グループ「狂映舎」を発足し、1976年に撮影した8mm自主制作映画「高校大パニック」が高く評価され、1978年には日活が同作品を(浅野温子主演で)商業リメイクをしたという天才ぶりであった。そんな背景から、小林稔侍はまだ学生だった石井からの出演依頼を快諾し、また泉谷しげるは自ら名乗り出て撮影に加わったという。泉谷しげるの演出が、また近現代アートのようで素晴らしく、また全編にわたり流れるロックも少しも色褪せていない。学生映画にも関わらず、東映が配給し全国公開したというのも納得できる。

あくまで女性目線だが、目を奪われるような美しいカットがいくつもあり、石井監督は本当に才能に恵まれていたのだな、と思う。冒頭、夜明けの道路を疾走するバイクのヘッドライトに、ハレーションのような虹色の暈がいくつも重なっているカット。薄闇の中で煌々と光る工業地帯やコンビナート群の夜景。暴走族の頭たちが集会を開くアジトのネオンやグラフィティ。中盤、ユキオ奪還のために武装するため、武器の保管庫を開けるシーンで、照明が背中から漏れて三人の影がシンメトリーになっているカット。小林稔侍に訓練されているシーンで「あれが敵だ」と戦時中に使っていた藁人形のようなものを木刀で指す時の、アングル・遠近法。また、ジンが街宣活動中、不良にひやかされ喧嘩になる時、機関紙が青空に舞うカット。ジンが小林稔侍に別れを告げてバイクで暴走している時、ミラーに映る仲間たちと、その背中に見え隠れする夕陽のきらめき。ジンらが乗り込んだディスコのシーンで、逆光の照明とストロボを浴びながら女の子たちが踊るカット。そして極め付けは、スーパー右翼の本部に残ったシゲルと小林稔侍の会話のシーンで、壁に映るプロジェクション・マッピングのような映像(ガンダム、バスキア、シャガール、PCのマザーボード、メカ、宇宙服を彷彿とさせるイメージ)が何より美しくて感動した。これが泉谷しげるの演出の一部なら、私はもう完全に彼の虜である。

女性の描きかたも実に秀逸だと思う。ケンとノリコのシーンは、別のジャンルの映画かと思うほど少女漫画のような甘さで彩られているのだが、ラストで別の男と歩くノリコという設定はとてもリアルで、男のナイーブさと対照的に、女のしたたかさを垣間見せるのである。

さて、美術・演出のビジュアルは女性にも楽しめたが、キャストやストーリーはかなり限定的に男性向けだと思う。まず、ケン以外の役者たちが全くハンサムでない上、みんな同じパンチパーマかリーゼントで、みんな一重か奥二重で、ジンもあのハイトーンヴォイスでなければ見分けがつかない。海外でも人気だが、外国人から見たらさらに判別不可能なのではないかといらぬ心配をしてしまうほど。反社会的行動、攻撃性、暴力性、闘争本能、反社会的グループへの帰属意識や忠誠心など、社会からはみ出してしまう落ちこぼれ青年のいじけっぷり、ねじれっぷり、こじらせっぷり、の昇華エネルギーの炸裂に、女性としてはあいにく共感とまではいかないというか・・・。自分の信念を曲げない不屈の精神と、漆黒の全身バトルスーツはさすがにかっこいいけれども。同じ80年代に人気を博した紡木たくの少女漫画「ホットロード」も暴走族ものだが、内容は完全にラブストーリーである。

もうツッパリや暴走族は流行らないのか、学校の教育や警察の取り締まりが成功したのか、それとも闘争本能の強い男性人口が減っているのか。一説には、テストステロンが多く闘争本能の強い攻撃的な男性は、戦いを求め戦いの中で死んでいくため、結果的にその遺伝子は自然淘汰されてしまい、戦いを避けるタイプの男性ばかりが生き残り繁殖して、地上の男性たちはどんどん女性化していくのだとか。戦国時代→関ヶ原の戦い→明治維新・戊辰戦争→日露戦争→太平洋戦争→太陽族→全共闘→暴走族・不良→ギャル男→草食系男子→りゅうちぇる、と考えれば納得してしまいそうなセオリーである。

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簡単なあらすじは、近未来の架空の町「サンダーロード」を疾走する暴走族たちの話である。警察の圧力に屈する形で、暴走族チーム(ドクロ・ドッグファイト・ガヤ・ホンキートンク・マボロシ)の各チームを解散し、ひとつの連合軍に統括することを決定する。しかし血気盛んなジン(マボロシの特攻隊長)だけは納得できず、仲間を引き連れて幹部集会に(覆面して)殴り込みをかける。

後日重症を負った幹部たちがまた集会をかけるのだが、マボロシの頭(ケン)だけが無傷であること、マボロシの特攻(ジン)が欠席であることから、殴り込みはジンの仕業だったと結論づけられてしまう。

頭をかかえるケンだったが、8年前にマボロシを結成したOBのタケシ(小林稔侍)が登場し、俺に任せておけと言って去る。

小林稔侍は、マボロシ特攻隊のアジトでジンを待ち伏せ、ジンたちを自分が所属するスーパー右翼団体にスカウトする。「無意味な闘争はやめて俺たちのところへ来い」と。

一方、連合軍はマボロシ特攻隊に制裁を加えようと動き出した。元ドクロのメンバーが、ジンの仲間であるユキオを人質として拉致し、ジンをおびき出そうとする。しかし敵は元ドクロでなく、連合軍全員だとタレコミがあり、ジンの仲間はほとんどが逃げ出してしまう。

残ったメンバー、ジン・チュウ・エイジの三人で戦いに挑むが、負け戦は明白。しかし、仲間のひとりであるシゲルが、小林稔侍に助けを求めに行っていた。危機一髪でスーパー右翼のバンが登場する。小林稔侍はスーパー右翼団体がマボロシ特攻隊メンバーの身を預かる、と仲裁に入る。その場はおさまるが、ユキオはリンチの末すでに命を落としていたのだった。

マボロシ特攻隊の残党は小林稔侍の指導のもと、スーパー右翼としての訓練を受け始める。初めは抵抗していたジンもやがて仲間に加わる。しかしやはり長続きせず、さっさと辞めてしまうのであった。

暴走族に戻ったジンを、エイジとチュウもバイクで追ってくる。三人はユキオを拉致し殺した元ドクロのメンバーが入り浸るディスコへ殴り込みに行く。

仇討ちに成功した三人は、明け方アジトに戻るが、連合軍の輩に待ち伏せされおり、集団リンチされてしまう。エイジは植物状態、ジンは右手と右足を切り落とされて入院。幸い軽傷だったチュウは、ジンを病院から連れ出した後に町を去る。ジンはバイクに乗れない体になってしまったことを嘆き、薬漬けで自暴自棄な日々を送る。

ある日ホームレスの溜まり場に漂流してきたジンは、シャブのディーラー&闇屋の小学生(コタロウ)と出会う。紹介されたあやしい男(海外版だからか、連続爆破事件の指名手配犯「マッド・ボンバー」という説明は一切ない。コタロウに「おっさん」と呼ばれるだけである。日本版はどこでその説明があるのだろう・・・)のツテで、マシンガン、ショットガン、バズーカを調達したジンは、全身黒づくめのバトルスーツに身を包み、連合軍に一人(男とコタロウの援護射撃有り)立ち向かうのだった。

ジンは連合軍を皆殺しにした後、銀紙をボディに巻いたバイクで去って行く。

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