成瀬巳喜男監督の「祇園囃子」(1953)で初めて女優若尾文子の演技を拝見したのだが、その現代的な美貌には心底驚いた。入江たか子や原節子など、一昔前の美人の定義とは違い、若尾文子の可愛さは現代でも十分通用するというよりも、現在の芸能界には存在しないような比類なき佳人なのである。
しかし、若尾文子は「可憐な妖精」路線ではなく、増村保造監督作品を筆頭に「情念と魔性の悪女」のような映画の出演が目立つ。可愛らしい顔におよそ似つかわしくない成熟した声で、媚びを含まない、突き放すような話し方をするギャップが面白い。容姿は可憐すぎるのだが、声はまさに「情念と魔性の悪女」のそれである。