「和製ブリジッド・バルドー」と呼ばれた加賀まりこの若い頃は無上の可愛さである。路上で篠田正浩と寺山修司の目に止まり、スカウトされたというなかなか贅沢なシンデレラ・ストーリーだ。
ウィキペディアによると、加賀まりこは小学生の時分より神田神保町の古本街に通い、澁澤龍彦翻訳の「マルキ・ド・サド選集」を愛読(そんな子供いるのか!?)。映画で見たオードリー・ヘプバーンの髪型にするため、ひとりで美容院に行くほどの早熟な子供であったらしい。また、小さい時から思ったことは何でも口にする歯に衣きせぬ毒舌だったというから、つくづく末恐ろしい子供である。
性格もイメージ通り、気が強くて生意気。デビュー後、仕事は順調だったが、とめどない仕事量と週刊誌のゴシップ記事に嫌気がさし、突然スケジュールを半年先までキャンセルし、単身パリへ。その時弱冠20歳。成人したばかりの小娘とは到底思えぬ、あっぱれな行動力である。パリではそれまでに稼いだお金で豪遊し、当時のフランスを代表する文化人ら、イヴ・サンローラン、トリュフォー、ゴダール、サガンらと交友したという。なんと豪華な顔ぶれだろう。
また文豪川端康成は、加賀まりこが出演した映画の原作者であった由縁で、撮影所や劇場に顔を出したり、食事を一緒に摂ったり、何かと目をかけていたという。加賀まりこ曰く、川端康成は「いいダチ」。これだけの美貌に恵まれて生まれると、無敵で怖いものなんて何もなく、器も大きくなるのかも知れない。
美少女としての小悪魔的魅力は二十代前半あたりまでだろう。篠田正浩監督「乾いた花」(1964)、中平康監督「月曜日のユカ」(1964)の頃が、まだ大人の女になりきれていない雰囲気が危うくて、私は一番好きだ。
「乾いた花」では本人そのもののような、肝の座った小娘の役である。池部良扮するヤクザにエスコートされ、秘密の賭場に出入りする。危険なことをして、ぎりぎりの緊迫感と興奮を感じなければ、生きている実感がないような感覚は、分かるようでいて共感はできないが、そんな生き方の二人をとてもスタイリッシュに描いている。完成度が高く安定感のある作品で、私の大好きな映画の一つである。